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楽譜通り弾くが存在しないバイオリン演奏 [偉そうな一言]

最近の辻井氏は、以前は時間軸に沿って音が流れるだけの演奏だったのが、最近は空間的な響きが聞こえるようになって、今後がとても楽しみです。もちろん、クラシックファンとしての一個人の感想です。その辻井氏が最近のTVのCMで、楽譜通り弾くのはつまらない、と言っていることに、えっ、と疑問を感じるバイオリン弾きは結構多いのではないでしょうか。バイオリン演奏に楽譜通りは存在しないのです。
バイオリンでは、楽譜から音のイメージを作ります。楽譜を見て弾きますが、頭の中は楽譜ではなく音、このイメージを作るのはそう簡単なことではないです。当然、イメージが楽譜通りなんていう事態はありえないことなのです。
しかし、楽譜を出して、最初の音弾いてみて、次に二番目の音、それを続けて弾いてみな、なんてそれらしいこと言う人がいると思います。例えば最初の音のイメージにはまず音程があります。ト長調の曲で、G線の開放弦の音だったら、その音はオーケストラとでもピアノとでもピッチが合いません。違った音を出したらそれは当然楽譜通りではない。いや、ピアノは平均律で楽譜通りなんだから、バイオリンは音のピッチがずれていてもそれいでいいんだよ、となるのでしょうか。しかし、バイオリニストはどうするか考え込んでしまいます。調弦を変えるべきか、あるいはここは開放弦を使わずに回避するか。
次に、ダウンボウで弾くかアップボウにするか、弓の真ん中でいいでいいか、駒から遠くにしたほうがいいか、次の音を考えたら、音符いっぱいの長さでいいか、途中で弓を離すか、スタッカートならさらにどういうふうな弓使いをするか、全て楽譜にないことを考える必要があります。選択肢が多すぎて楽譜通りというものがないのです。どれで弾いても楽譜どおりと言っていいい、などというのは単なる屁理屈。音のイメージを無視してどれでもいいなんて、演奏行為を尊重せず、もはや演奏ではないでしょう。

実は、ここに現代の音楽の大きな問題があるように思います。上記のような演奏行為をしない音楽があります。リズムボックスというものです。人間は必要ありません。しかし、それを使って演奏します。妥協でもありません。それが演奏なのです。むかしのリズムセクションの演奏者は言いました。コンピュータが作るリズムになんて乗れるわけないだろう。もはやそれはどうでもいいことのようです。メトロノームに毛の生えたものがリズムボックス、それをそのまま演奏に使う。演奏は堕落してしまった!

本来は、ピアノにおいても、楽譜通りの演奏なんてものは、存在しないのではないでしょうか。

追記
アップした後で、ピアノの楽譜例を一つを思い出しました。バイオリンと違って、ピアノでは長音は減衰するのみですが、その長音にクレッシェンドが付いている場合があります。これを楽譜通り演奏する、ことはどうやってもできません。
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