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いい演奏とそうではない演奏 [偉そうな一言]

生演奏と録音を聞くのでは全く異なります。これは普通はあまり知られていないと思いますが、例えば録音するときに、その生音を聞くのと、単にマイクからアンプそしてスピーカから聞こえるモニターの音を聴き比べれば、だれでもびっくりするくらい異なることがわかります。スタジオなどの高価な機器を使ってもそれは違います。まず音色が全然違います。また、低音から高音までのバランスも異なります。さらに複数の楽器ではそのバランスも異なります。録音を聴いて本番の状況を推測できるのは経験からであり、実際にはそれとは全く異なる音が聞こえていた、と考えるのが正しい姿勢と言えるでしょう。

さて、このことを踏まえて、先日TVで録音を聞いたバイオリンソナタの感想ですが、最初から、いわゆるほぼ楽譜に沿った演奏ではないものでした。一つ一つの音もやや荒く、音楽の流れも途切れ途切れ、ピアノとバイオリンが合うべきところがずれていたり、など、途中で聞くのを止めました。しかし、もちろん、終わってからはたくさんの拍手でした。そこで、改めて演奏とは何かを考えました。

ピアノというのは、クラシックで使われる楽器の中では、音を出すのが一番簡単な楽器だと思います。そしてバイオリンはその反対にかなり難しい楽器です。ところが、ピアノは上手な人と下手な人は意外とはっきりと見分けられます。きちんと感情に訴えてくる音楽としてまとまりを持っているかどうかで、明確に分かれます。それに比べるとバイオリンは、それなりの音を出すまでが大変です。そして、それが出せるようになると、その音を聞いただけで人は感情を動かされます。そうなると、あんまり大した演奏ではないのに、人はそこに何か美しいものを感じたりします。そして、いい演奏をひどい演奏の区別は、むしろピアノより難しいと思います。

このいい演奏とそうではない演奏は具体的には何が違うのか、バイオリンはわかりにくいですが、簡単に言えば、いい演奏は音楽が伝わってきます。しかし、そうではない演奏で伝わってくるのは、音楽以外のものです。例えば、これだけ弾けるんだぞ、とか、こんな演奏くらい簡単簡単など、あるいは場合によっては、私が演奏したら悪いわけない、という勘違いです。作品に対する敬意などはもちろん感じられません。

さらに、いい演奏にも二種類あります。たとえば、このフレーズはこの音を大切にして、ここはもっとスタッカートとスラーの性格をはっきりと分けて、などはかなり表現として重要になりますが、このようなことは実はテクニックに分類できます。ところが、ここはこういう気持ちを持って弾く、というのは全くテクニックではありませんし、テクニックに結びつけることはできません。つまり、テクニックを全て無くした場合に残るものというのがあります。それが音楽の価値です。テクニックとは一種の機械的な動作として置き換えられるもののことです。将来AIがそういうテクニックを満載した演奏というものを作る可能性が考えられます。そして、そういう演奏も音楽として楽しむことができるでしょう。しかし、真の音楽の価値はそこにはありません。たとえば、パガニーニの演奏は多くの人々を虜にしました。しかし、あの難曲を見事に弾いたからといって、人々はそこまで熱狂しません。超絶技巧は驚かせはしますが、熱狂させたのは、彼の演奏にあったそういう、価値のものです。もちろん、これは個人的な想像に過ぎません。

音楽を単なるエンターテイメントにすることもできますが、実際にはもっと違う価値もあります。クラシック音楽を愛する人にそういう演奏を何度か体験しているのではないでしょうか。そして、そういういい演奏は決して名手だけのものでもありません。
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